千葉地方裁判所 昭和57年(わ)415号 判決 1982年9月24日
裁判所書記官
原田伸一
本籍
千葉県山武郡横芝町横芝一、一七〇番地
住居同所
会社員
畔蒜英雄
昭和一八年七月二六日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は検察官永田俊明出席のうえ、審理をして、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役一年及び罰金三〇〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、株式会社太平洋物産ほか数社の代表取締役を兼務していたものであるが、右業務のかたわら、個人で継続して株式を売買するなどして多額の所得を得ていながら、自己の所得税を免れようと企て、右株式の売買につき他人の取引であるもののように仮装するなどして所得を秘匿した上、昭和五五年分の実際の総所得金額が二億七一六万八、四九八円、分離課税による短期譲渡所得金額が一一六万五、〇〇〇円であったのにかかわらず、昭和五六年三月一四日、千葉県東金市東金八一〇番二号所在の所轄東金税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が一、三五五万五、〇〇〇円、分離課税による短期譲渡所得金額が一一六万五、〇〇〇円で、これに対する所得税額が九六万八、〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、昭和五五年分の正規の所得税額一億三、七六五万八、七〇〇円と右申告税額との差額一億三、六六九万七〇〇円を免れたものである。
(証拠の標目)
一、被告人の
1 当公判廷における供述
2 検察官に対する供述調書三通
3 大蔵事務官に対する質問てん末書八通
一、熱田進昭の
1 検察官に対する供述調書謄本二通
2 大蔵事務官に対する質問てん末書九通
一、繁田清美の
1 検察官に対する供述調書謄本
2 大蔵事務官に対する質問てん末書三通
一、金容原の検察官に対する供述調書謄本二通
一、市原貞夫の大蔵事務官に対する質問てん末書
一、大蔵事務官作成の
1 脱税額計算書
2 株式売買益調査書三通
3 現物取引売買益調査書
4 信用取引売買益調査書
5 株式売買回数・売買株数調査書
6 株券(現物)の移動に関する調査書
7 支払利息調査書
8 公租公課調査書
9 雑費証明書
一、検察事務官作成の昭和五七年五月一〇日付報告書謄本
一、半田登作成の
1 申述書
2 証明書二通
一、浅野美弘作成の証明書
一、押収してある所得税確定申告書四枚綴(昭和五七年押第一四七号の一の一)
(弁護人の主張に対する判断)
弁護人は、被告人の有価証券取引による所得金額について、大和証券千葉支店の口座における東邦レーヨンと品川白煉瓦の株式売買取引は、金容原との混合口座であって、金容原との割合が不明であるのに、被告人が三割五分の割合であるとして課税するのは具体的な根拠がなく、合理性がないので、右売買による所得一、九〇五万三、一〇三円はほ脱所得から除外されるべきであると主張するので、検討する。
浅野美弘作成の証明書、検察事務官作成の昭和五七年五月一〇日付報告書謄本、大蔵事務官作成の昭和五七年五月二〇日付株式売買益調査書、繁田清美の大蔵事務官に対する質問てん末書三通及び検察官に対する供述調書謄本、金容原の検察官に対する昭和五七年五月一二日付供述調書謄本、被告人の検察官に対する昭和五七年四月二八日付、同年五月一三日付各供述調書によれば、被告人と金容原は一緒に大和証券千葉支店で取引をする際、同支店次長繁田清美に対し、共同の取引で二人で注文を出すからと説明し、九名にも及ぶ仮名口座を設定させて株式売買の取引を行い、もっとも自らは仮名を知ろうともせず、専ら繁田に税金対策のための口座の操作を全面的に委ねて、売買の指示だけを繁田にしており、繁田は右口座を両者の混合勘定にしていたのであるが、指示は殆んど被告人が行い、被告人と金との割合を指定することなく銘柄、株数の指示であり、繁田は両名二分の一ずつの割合で取引計算を行い、また被告人から自己の分だけ売ってくれとの注文があるとこれも二分の一の株数を売っておけば、いずれもそれで両名から異論がでることなく過ぎてきたので、通常は取引は両名二分の一ずつの割合であり、大和証券千葉支店における東邦レーヨンと品川白煉瓦の取引全体については明確であり、そしてその割合においても繁田においては二分の一ずつの割合と認識しており、ただ金において「私は畔蒜さんよりも東邦レーヨン・品川白煉瓦の取引は多かったように思う。その二つのうち一五万株多く買った銘柄は六対四、一〇万株多く買った銘柄は五・五対四・五の割合で私の方が多かった。」旨、被告人において「東邦レーヨン・品川白煉瓦の取引は金容原の方が多く私が四で金が六くらいであったろうと思うし、いかに少なめに言って私の取引が全体の三割五分以下だったことはあり得ない。」旨各述べていることが認められる。
右事実によれば、被告人の割合が三割五分と認めることは合理的な根拠と理由があるというべきで、弁護人の主張は採用しない。
(法令の適用)
被告人の判示所為は、行為時においては昭和五六年法律第五四号による改正前の所得税法二三八条一項に、裁判時においては右改正後の所得税法二三八条一項に該当するが、右は犯罪後の法令により刑の変更があったときにあたるから刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑によることとし、所定刑中懲役刑及び罰金刑を併科し、罰金刑については情状に照して所得税法二三八条二項を適用し、その所定刑期及び金額の範囲内で、被告人を懲役一年及び罰金三、〇〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用して、この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 小倉正三)